2025年3月8日公開
最終更新日:2025年3月8日
SaaS企業の利益率はどのくらい? 業界動向も解説
SaaS企業ではインサイドセールスが重要視されています。SaaSにおける利益について理解することは、インサイドセールス職では欠かせません。本記事では、SaaS企業の利益率の計算方法および利益率に関連する指標について解説します。加えて、SaaSにおけるインサイドセールスの役割やSaaS業界の市場などについても説明するので、ぜひ参考にしてください。
▼そもそもSaaSとはなにか、SaaSの基礎知識について知りたい人は、以下の記事で詳しく解説していますので、こちらをご覧ください。
SaaS(サース)とは? IaaS・PaaSとの違いやメリットを解説
SaaSのビジネスモデルとは? 収益構造やサービスの特徴をわかりやすく解説
SaaS企業の利益とは
そもそも、SaaS企業はどのようにして利益を得るビジネスモデルとなっているのでしょうか。基本的な知識から解説します。
SaaS企業における利益とは
SaaSの収益は、サブスクリプション収入がほとんどを占めます。これは顧客から月額または年額で得られる定期料金です。収益に一貫性があり継続して安定して得られるほか、季節性に左右されることもないため、予測しやすいという特長があります。
SaaS企業における利益率とは、売上高から売上原価を差し引いた金額の割合(粗利益率)を示します。具体的には、以下の計算式で算出されます。
粗利益率 = [(売上高 - 売上原価) ÷ 売上高] x 100
例えば、
・売上高:1,000万円
・売上原価:300万円
とした場合、
粗利益率 = (1000 - 300) / 1000 x 100 = 70%
となります。
利益率は、企業の収益性を測る指標として非常に重要です。中でもSaaSの粗利益率は、他の業界に比べて高い傾向にあります。
SaaS企業のベンチマークとして、一般的に粗利益率が75%を超えている場合は、ビジネスは適正であるとみなされています。業績がよい企業では80%以上を超えることもあり、逆に70%を下回っている場合は、他社との競争関係に問題がある可能性があると見られます。
また、売上原価だけでなく販管費や税金などのその他費用を含む、全ての費用を差し引いた金額の割合(純利益率)は、以下の計算式で算出されます。
純利益率 = [(売上高 - 売上原価 - 販管費 - その他費用) ÷ 売上高] x 100
例えば、
・売上高:1,000万円
・売上原価:300万円
・販管費:100万円
・その他費用:300万円
とした場合、
純利益率 = (1000 - 300 - 100 - 300) / 1000 x 100 = 30%
となります。
粗利益率、純利益率どちらも、ビジネスの財務状況を知るうえで重要な指標であるため、覚えておきましょう。
SaaSの利益率に関連する指標
SaaSの利益率に関連する指標として「売上原価」と「販管費」があります。利益率を高めるためには、知っておかなければいけない重要な指標です。具体的にどのようなものが該当するか、解説します。
売上原価
売上原価には、以下のようなものが挙げられます。
・サーバーおよびデータストレージのホスティングコスト
・カスタマーサポート費用
・ソフトウェアライセンス
・開発費用
売上原価は主にホスティングコストとカスタマーサポート費用が多くを占めます。そのため、この2つの費用をいかに抑えるかが、利益率を向上させるためのポイントです。
カスタマーサポート費用や開発費用は、主に人件費が該当します。ただし、人件費について営業やマーケティング関連の費用は、販管費に含まれるため、注意しましょう。
販管費
販管費(販売管理費)は、主にセールス、マーケティングの人件費や広告費用が挙げられます。広告・宣伝の他、インサイドセールスやフィールドセールスを行うための費用が含まれます。また、研究開発や情報収集、情報分析のためのための費用も販管費です。
その他、バックオフィスの人件費やオフィスの設備費、光熱費など、特定の部署に直接関わらない費用も管理費として含まれます。
SaaS企業の投資基準「40%ルール」とは
SaaS企業の利益率を考える際には「40%ルール」についても理解しておくことが重要です。以下に詳しく解説します。
40%ルールの計算方法
SaaS企業を評価するもう1つの基準として「40%ルール」があります。これは、売上成長率と営業利益率の合計が、40%を超えている場合にその企業が成長しているとみなされます。計算式で表すと、以下のとおりです。
売上成長率(%)+ 営業利益率(%)≧ 40(%)
ここで、例を見てみましょう。売上成長率は、以下の計算式で算出します。
売上成長率 = [(当期の売上高 - 前期の売上高) ÷ 前期の売上高] x 100
例えば、
・当期の売上高:1,000万円
・前期の売上高:900万円
とした場合、
売上成長率 = (1000 - 900) / 900 x 100 = 11%
となります。
次に営業利益率をみてみましょう。営業利益率は、売上高における営業利益の割合です。具体的には、以下の計算式で算出します。
営業利益率 = (営業利益 ÷ 売上) x 100
例えば、
・売上:1,000万円
・営業利益:300万円
とした場合、
= 300 / 1000 x 100 = 30%
となります。
よって、40%ルールと合わせた場合、売上成長率+営業利益率は
売上成長率(%)+ 営業利益率(%)= 11% + 30% = 41% ≧ 40(%)
という結果になります。
40%ルールが重要視されている理由
「40%ルール」は、投資家がSaaS企業に投資をするための判断基準として重要視されています。その理由は、SaaSビジネスは赤字になりやすいビジネスモデルであるためです。
赤字になりやすい理由の1つは「競合他社が非常に多い」ことです。例えばオフィスソフトはビジネスにおいて必須のツールであり、多くの企業がソフトウェアを提供しています。SaaSだけでなく従来のパッケージソフトもあり、なかにはGoogleドキュメントのように無料で提供しているものもあります。その中で利益をあげていかなければなりません。
赤字になりやすいもう1つの理由は、SaaSビジネスが「利益につながるまでに時間がかかる」点です。SaaSが利益を得るためには、ある程度のユーザー数を確保しなければいけません。ユーザー数を確保するためにマーケティングが必要となり、その分のコストもかかります。また、長期的に利用してもらい、顧客を定着させるために、継続してマーケティングを行う必要があります。
利益を得るためには、コストを上回る売上を得なければなりません。そのため、投資家にとって40%ルールが継続して企業が成長していると判断するための重要な基準となっています。
SaaSの利益率を改善させるには
もしSaaS企業の利益率がよくない、成長率が低迷している、というような場合に検討すべき改善策をご紹介します。
効果的なKPIを設定する
収益を最大化するためには、適切な価格設定のほか、新規顧客の獲得および解約率の抑制が挙げられます。これを実現するためには、効果的なKPIを設定して営業活動を行うことが大切です。
効果的なKPIを設定するには、以下のポイントを押さえるとよいでしょう。
・チーム全体の目標と合致すること
・達成可能な目標であること
・測定可能であること
また、代表的なKPIの指標としては、以下が挙げられます。
・商談数
・受注数
・フォローアップ数
設定したKPIは適宜見直しを行いましょう。明確に目標を定めることでメンバーのモチベーション向上や効果的な営業活動による成果の最大化につながります。
コストの削減
利益率の改善には、コストを抑えることも有効です。売上原価としてあがるのはホスティングコストと人件費です。コストの削減方法として、例えば、サーバー費用についてはオンプレミスとクラウドサービスを上手に活用する方法が挙げられます。
オンプレミスは、SaaSで利用するサーバーを自分たちで用意する方法です。自由にカスタマイズできるというメリットがある反面、機器購入により初期費用が高額になる点がデメリットです。
一方クラウドサービスは、サーバーやネットワークといったITインフラを仮想環境で利用する方法です。カスタマイズに制限がありますが、クラウドサービスはオンプレミスと比較して、初期費用を安く抑えられます。なぜなら、クラウドサービスが利用料による課金(従量課金)であるからです。
オンプレミスとクラウドサービスでコストが異なることを理解しておくことが大切です。クラウドサービスは初期費用が抑えられますが、データ量やトランザクション量が多くなるとその分費用が発生します。その結果、長期的な利用を考えるとオンプレミスのほうが安くなる場合もあります。
クラウドサービスはスタートアップにも向いているため、最初は初期費用を押さえつつSaaSを展開し、状況に応じてオンプレミスに切り替えるといった活用をすると良いでしょう。
次に人件費を削減する方法として、業務効率化が挙げられます。例えばカスタマーサポートでは、IVR(電話自動音声応答システム)やAI技術を活用したチャットボットを活用するのも方法の1つです。業務効率化につながり、サポートコスト削減を実現できます。
SaaS業界の市場規模と将来性
クラウドサービスの普及に伴い、SaaS業界は成長市場として注目されています。SaaS業界の市場規模はどのようになっているか、今後の将来性はどうなのか、詳しく解説します。
SaaS業界の市場規模の推移
One Capitalのレポート「Japan SaaS Insights 2024」(※1)によると、2023年の国内SaaS市場規模は1.4兆円に達し、2027年には2兆円を超えると見られています。さらに成長率をみると、2023年からの年平均成長率(CAGR)は11%と予測されており、今後も右肩あがりで成長が続くことが予測されています。
カテゴリ別に見た成長率では「業務システム」が15.5%と高い成長率を示しており、SaaSはビジネスにおける必須ツールとも言えるでしょう。
加えて、DX推進で注目されているローコード・ノーコードをはじめとした「インフラ」分野でも13.4%となっており、高い成長率が見込まれています。
※1 出典:One Capital「Japan SaaS Insights 2024」
https://onecapital.jp/perspectives/japan-saas-insights-2024
今後の予測
SaaS業界は高い成長率が示しているとおり、今後も継続して成長していくと予測されています。具体的に今後の成長が予測される業界として、以下が挙げられます。
・金融業界
銀行の機能を組み込んだSaaSの普及が注目されています。例えば、オンラインバンキングや証券の取引システムといったIT技術を活用したサービスが急速に進んでおり、今後も高い需要が見込まれると予測されています。
・教育分野
教育ではeラーニングやオンライン学習が普及しています。例えば、AI技術や機械学習、ディープラーニング分野をはじめとした学習システムの需要が高く、SaaSが活用されています。
・セキュリティ分野
不正アクセスや情報漏洩などのセキュリティリスクから重要なデータを保護するためのサービスが注目されています。具体的には、標的型攻撃から保護するIDS/IPS(不正侵入対策)や、WAP(Web Application Firewall)などの機能をもったサービスが提供されています。
このように、SaaSはさまざまな業界・分野で普及が進んでいることから、今後もますます発展することが予想されます。
SaaS業界が発展する要因
SaaS業界が今後も発展するといえる大きな要因として「DX推進によるIT投資の増加」と「IT技術の急速な発展による利便性の向上」の2つが挙げられます。
・DX推進によるIT投資の増加
2018年に経済産業省が発表した「DXレポート」(※2)では「既存システムの老朽化や複雑化により、2025年以降最大12兆円もの経済損失を招く」とされています。この問題を解決する方法として、デジタル技術を活用してビジネスを変革する「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」の推進が進められています。
SaaSは、DXを進めるうえで有効な手段の1つとされており、多くの企業でIT投資が増加しています。これが、SaaS業界の成長要因の1つとなっています。
・IT技術の急速な発展による利便性の向上
IT技術の発展も重要な要因です。特に昨今注目されているのが、生成AIの機能を組み込んだSaaSです。例えばオフィスツールのSaaS「Microsoft 365」ではCopilot、GoogleドキュメントではGeminiなど、AIアシスタントを組み込んだサービスを提供しています。
他にも、チャットやWeb会議などビジネスに必要なツールがSaaSで提供され、利便性が向上しました。リモートワークの普及や働き方改革の推進によるSaaS需要の高まりにも大きく後押しされ、今後もますますSaaS市場は成長を続けると見られています。
※2 出典:経済産業省「D X レポート~ITシステム 2025年の崖 の克服とDXの本格的な展開~」
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_01.pdf
SaaSにおけるインサイドセールスとは
インサイドセールスとは、メールや電話、Web会議などの手段で非対面による営業活動や営業手法のことです。顧客と直接対面して交渉を行うフィールドセールスとは異なり、移動を伴わないため営業コストを安く抑えられる他、オンラインによるスピーディなアプローチが可能です。
▼インサイドセールスの概念や基本的な考え方、具体的な活動内容について知りたい人は、以下の記事もあわせてご覧ください。
「インサイドセールス」って何? 定義や役割、職種の特徴や他の営業職との違い、将来性などまとめて解説!
SaaSのインサイドセールスの役割
ここでは、SaaS企業におけるインサイドセールス職がどのような役割を担うかを解説します。
SaaSでインサイドセールスが重要視されるのはなぜか
SaaS企業は営業手法としてインサイドセールスを重要視しています。その理由は、SaaSとインサイドセールスは親和性が高く、ビジネスにおいて非常に有効な営業手法であるためです。
例えば、SaaSは無形商材でありWeb上で提供され、地理的な制約を受けないという点がインサイドセールスと共通しています。そのため、一連の営業活動をオンラインで完結できます。
また、SaaSは一般的に月額・年額によるサブスクリプションモデルをとっていることが多く、顧客を維持する活動が求められます。インサイドセールスは顧客と継続的にコミュニケーションがとれるため、SaaSビジネスに有効な営業手法といえます。
SaaSのインサイドセールスの主な役割
SaaSビジネスにおけるインサイドセールスは、多くの役割を担います。ここでは、特に重要な3つの役割について解説します。
▼さらに詳しい情報を知りたい方は、以下の記事もぜひあわせてご覧ください。
SaaS企業のインサイドセールスの役割とは? 導入メリットや効果を出すポイントを紹介
・リードナーチャリング
メールや電話などを通して見込み顧客を獲得し、継続的にコミュニケーションをとる役割です。顧客との信頼関係を築くことで購買意欲を高め、商談につなげます。また、既存顧客ともコミュニケーションをとり、顧客満足度を高めて契約を維持していくことも重要な役割です。
・顧客の課題を引き出す
SaaSを契約してもらうには、SaaSを導入することで顧客の何らかの課題を解決できることを説明することが大切です。そのための最初の一歩として、顧客の課題を引き出します。顧客の話に耳を傾け、課題を引き出し解決に導く提案ができれば、スムーズに商談へとつなげられます。
・顧客から情報を引き出す
インサイドセールスは、顧客と接する機会が非常に多いため、多くの情報を得ることができます。例えば、以下のような情報です。
・自社サービスに対してどこまで興味を持っているか、
・見込みがありそうな顧客はどういう考えを持っているか
・どのようなサービスを必要としているか
このような情報を社内全体に発信することで、サービスの改善や効果的なマーケティングに活用できます。
SaaS利益率の仕組みを理解して営業に活かそう
本記事では、SaaSビジネスが適正化どうかを判断する粗利益率や、企業の成長を判断する40%ルールについて解説しました。これらを理解しておくと、営業活動で押さえておくべきポイントなどが、見えてくるでしょう。インサイドセールスは、新規顧客の獲得、既存顧客の維持のために重要な役割を担います。
SaaS業界は今後もますます発展することが予測されています。しかし、SaaS企業は赤字になりやすい面があるため、SaaSビジネスの状況を常に把握することを心がけましょう。効果的な営業をしていくことは、利益率を改善するための第一歩です。
本記事の内容を理解し、ぜひ営業活動に役立ててください。
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