2025年3月7日公開
最終更新日:2025年3月7日
SaaSのビジネスモデルとは? 収益構造やサービスの特徴をわかりやすく解説
近年、多くの企業が導入を進めているSaaS。クラウドを活用し、インターネット経由でソフトウェアを提供するこのビジネスモデルは、従来の買い切り型とは異なる収益構造を持つ点が特徴です。SaaSの市場は急速に拡大しており、今後も多くの企業で活用されることが予想されています。
本記事では、SaaSの基本的な仕組みやビジネスモデルの特徴、収益構造についてわかりやすく解説します。SaaS企業のご担当者だけでなく、これからSaaS業界への転職を検討されている方もぜひ参考にしてください。
SaaSの仕組みと関連用語
まず始めに、SaaSとSaaSに関連する用語の基礎知識を解説します。
SaaSとは
SaaS(サース、サーズ)とは、「Software as a Service」の略称であり、サービスとしてソフトウェアを利用するクラウドサービスの一種です。サービス提供事業者のサーバー上で動いているソフトウェアへ、インターネット経由でユーザーがアクセスして利用する仕組みになっています。ユーザー端末側でソフトウェアのインストールやデータの保存が必要なく、インターネットにつながる環境があればどこからでもソフトウェアを利用できる点が大きな特徴です。
IaaS・PaaSとは
SaaSと同様に、クラウドサービスの代表的な形態としてIaaS(イアース、アイアース)やPaaS(パース)があります。IaaSは「Infrastructure as a Service」、PaaSは「Platform as a Service」の略で、それぞれサービスの提供範囲が異なります。
IaaSは、アプリ等が動作するインフラ基盤をインターネット経由で利用できるクラウドサービスです。ハードウェアおよびハードウェアが動作するネットワークやOSが提供され、ミドルウェアやアプリケーションはユーザー側で自由に構築できるようになっています。
PaaSは、IaaSのサービスに加えてデータベース等のミドルウェアもセットで利用できるクラウドサービスです。利用できるミドルウェアはサービス提供事業者によって決まっているため、IaaSと比べて利用できるミドルウェアの選択肢が狭くなりますが、開発環境の構築・運用にかかる負担は少なくなります。
その他のサービス
現代では、多くのクラウドサービスが提供されており、サービスによって「〇aaS」という名称が細分化されています。例えば「Desktop as a Service」の略でデスクトップ環境を利用できるDaaS(ダース)や、ユーザーの認証と認可の機能を利用できるIDaaS(アイダース)等があります。全ての名称を覚える必要はありませんが、「〇aaS」は何かしらの機能をインターネット経由で利用するクラウドサービスだと理解しておきましょう。
▼SaaSの基礎知識については、こちらの記事でも解説しています。
SaaS(サース)とは? IaaS・PaaSとの違いやメリットを解説
SaaSのビジネスモデルと特徴
SaaSの基礎知識を確認したところで、本題のSaaSのビジネスモデルを解説していきます。
SaaSのビジネスモデル
SaaSのビジネスモデルは、インターネット経由でユーザーにソフトウェアを提供し、ユーザーから所定の課金モデルに応じた費用を支払ってもらうことで収益をあげる仕組みになっています。代表的な課金方式としては、定額制のサブスクリプションモデルや、使用に応じた従量課金モデル、基本料金は無料で有料機能を利用した場合に費用が発生するフリーミアムモデルがあります。
それぞれの課金方式の概要とメリット・デメリットは下記の通りです。
SaaSのビジネスモデルの特徴
SaaSには多様な課金方式があります。前述した課金方式のなかでも、従量課金ではどの利用単位を課金対象とするか、フリーミアムではどの機能を有料とするかによって、さらに細分化されます。過去のOffice製品のようなパッケージ買い切り型と比べ、幅広い収益化の方法を検討できる点がSaaSのビジネスモデルの大きな特徴と言えるでしょう。
ただし、SaaSはユーザーに利用してもらうことで収益を得るという仕組み上、いずれの課金方式においても、長期に利用してくれるユーザーをいかに獲得するかが重要になる点は共通です。近年、多くの事業者がSaaSビジネスに参入しています。競合が多いなかでユーザーを獲得し続けるためには、様々なデータを活用してユーザーのニーズを把握し、ユーザーのニーズを満たす最新サービスを提供し続けることが求められます。
SaaSの営業プロセス
SaaSの営業プロセスには、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスの4つがあります。従来の営業プロセスでは、営業担当者が顧客の発掘から契約、アフターフォローまで対応していましたが、SaaSにおいては一連の営業活動を細分化し、各プロセスに役割を持たせているのが一般的です。
マーケティングのプロセスでは、セミナーや広告出稿等の手段で見込み顧客を発掘し、インサイドセールスに情報を引き継ぎます。インサイドセールスとは、メールやWeb会議等のコミュニケーションツールを用いて内勤で営業活動をおこなう営業職です。インサイドセールスのプロセスは、引き継いだ見込み顧客と適切なコミュニケーションを取り、優良な見込み顧客へと育てる役割を担います。
インサイドセールスの次に、商談とクロージングを担うのがフィールドセールスのプロセスです。インサイドセールスによる優良見込み顧客の見極めと育成が、フィールドセールスの成功率に大きく影響します。
インサイドセールスとフィールドセールスを経て受注が確定した後は、カスタマーサクセスに業務が引き継がれます。SaaSはビジネスモデル上、契約を獲得するだけでなく、長くサービスを利用してもらう必要があるため、カスタマーサクセスが担う役割も非常に重要です。
▼インサイドセールスの概念、基本的な考え方や活動内容についてはこちらの記事で総合的に解説しています。
「インサイドセールス」って何? 定義や役割、職種の特徴や他の営業職との違い、将来性などまとめて解説!
▼また、SaaSの営業の詳細はこちらの記事で解説しています。
SaaS営業とは? 一般営業との違いや仕事内容・メリット・デメリット・転職に必要なスキルなども解説
SaaSの市場動向と成長率
総務省が発行している情報通信白書によると、SaaSを含むパブリッククラウドサービスの市場は世界規模で年々拡大しています。令和5年版の情報通信白書では、2026年まで世界のパブリッククラウドサービス市場が拡大し続け、パブリッククラウドサービスのなかでも、SaaSの市場が最も大きくなると予測されています(※1)。
日本のパブリッククラウドサービス市場においても、新型コロナウイルスや働き方改革等の影響でオンプレミスからクラウドへの移行が進んでおり、年々市場が拡大しています。移行が進むにつれ成長率は落ち着きますが、安定して成長を続け、2028年には2023年と比べて2倍以上の市場規模となることが予測されています(※2)。
上記のデータに加え、今後AIやIoT技術等によるデータ活用が加速していくことをふまえれば、SaaSはビジネスチャンスが多い市場と言えるでしょう。自らサービス提供事業者となる場合はもちろん、SaaS企業で働く場合でも、業界の成長による採用拡大で転職しやすくなったり、収益増によって待遇が向上したりと、多くのメリットを得られる可能性があります。
※1 出典:総務省「令和5年版 情報通信白書|クラウドサービス」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r05/html/nd248200.html
※2 出典:総務省「令和6年版 情報通信白書|クラウドサービス」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/html/nd218200.html
SaaSのメリット・デメリット
SaaS業界は今後も安定した市場成長が見込まれていることを解説しましたが、なぜSaaSには多くのニーズが集まっているのでしょうか。ユーザー側・事業者側それぞれのメリットをご紹介します。
ユーザーのメリット
ユーザーがSaaSを利用するメリットとしては以下が挙げられます。
・インターネットにつながる環境ならどこでも使える
現在では、出張先やテレワーク中でも、社内と同じようにシステムを利用できる環境が求められています。SaaSであれば、インターネット環境さえあれば出張先・カフェ、自宅などどこからでもアクセスできるため、ニーズを満たす環境を簡単に構築できます。
・初期コストを抑えられる
SaaSのインフラ基盤やデータ等は、サービス提供事業者が管理します。ユーザー側でサーバーや専用設備を用意する必要がないため、初期コストを抑えられます。
・利用開始、停止のハードルが低い
SaaSはソフトウェアのインストールが不要で、契約とアカウント登録だけで簡単に利用開始できます。リソースが増減するタイミングや不要になった際に柔軟に契約を見直せるため、導入や撤退のリスクを最小限に抑えられます。
・安定したサポートを受けられる
事業者によって、最新技術を活用した機能追加やトラブル時のサポート等が提供されます。安定したサポートが受けられることで、メンテナンスの負担が少なくなります。
・セキュリティ性が高い
データの暗号化や多要素認証等の高度なセキュリティ対策に加え、最新のセキュリティアップデートが提供されます。また、端末の故障や盗難時でも、クラウド上から安全にデータを復旧できます。
ユーザーのデメリット
一方で、以下のようなユーザーのデメリットも挙げられます。
・継続的なコストがかかる
買い切り型と比べ、SaaSは継続的なコストがかかります。最新機能やサポートを求めず、最低限の機能さえあれば良い場合は、買い切り型よりもコストが高くなる可能性があるでしょう。
・カスタマイズの幅が限定されている
SaaSは汎用性を重視して設計されており、ユーザーごとの細かいカスタマイズに対応していない可能性があります。企業独自の要件がある場合には、SaaS以外の選択肢も検討する必要があるでしょう。
・安定して利用できるかは事業者の質に大きく依存する
SaaSのサービス稼働率やサポート品質等はサービス提供事業者に依存します。実績の少ない事業者のサービスを利用することで、様々なトラブルが発生するリスクがあります。
事業者のメリット
事業者がSaaSビジネスに取り組むメリットとしては、以下が挙げられます。
・継続的な利益を得られ、収益予想も立てやすい
SaaSは買い切り型と異なり、継続的に収益を得られるビジネスモデルになっています。新規契約数と解約率を分析することで、将来的な売り上げ予測を立てやすいでしょう。
・最新の技術を活用できる
最新技術を活用した機能をユーザーに提供できる点は、導入・維持コストの負担はありますが、事業者にとって大きなメリットでもあります。最新技術で快適なサービスを提供できれば、ブランドイメージが高まり、収益向上や人材確保等に良い効果が期待できます。
・急速な事業拡大が可能
SaaSはオンラインでサービスを提供するため、国内外問わず幅広い層をターゲットにできます。顧客の獲得とリソース確保ができれば、急速に事業規模を拡大することも可能でしょう。
事業者のデメリット
一方で、事業者には以下のようなデメリットもあります。
・投資の回収に時間がかかる
SaaSは継続的な収益が前提なビジネスモデルとなっており、サービス構築にかかる初期投資を回収するために時間がかかります。機能追加やセキュリティ対策等、リリース後にもコストがかかるため、十分な資金を確保しておく必要があります。
・競合他社との差別化、最新技術の維持が必要
SaaSビジネスには多くの企業が参入しており、安定した収益を得るためには顧客ニーズの把握と他社との差別化が重要になります。データを活用しながら競争力のあるサービスを目指すと良いでしょう。
・カスタマーサポートの品質維持が難しい
SaaSビジネスでは、顧客と長期的に良好な関係を築くことで安定した収益を実現できます。顧客の増加に伴いカスタマーサポートの負担が増えると、カスタマーサポートの品質が低下し、顧客の離脱が発生する可能性があります。AI等の技術を活用してカスタマーサポートの負担を下げ、いかに品質を維持できるかがポイントになります。
SaaSで重要視される指標・KPI
SaaS事業においてKPI等で利用される重要な指標をご紹介します。
MRR(月間経常収益)
「Monthly Recurring Revenue」の略で、毎月の経常収益を表す指標です。MRRの推移をみることで、SaaS事業の成長状況をチェックできます。
MRR = 該当月の総ユーザー数 × 1ユーザーあたりの月間平均収益
ARR(年間経常収益)
「Annual Recurring Revenue」の略で、年間の経常収益を表します。MRRと同様にSaaS事業の成長を見るための基本的なデータで、長期的な事業計画等のKPIで利用されます。
ARR = MRR(月間経常収益) × 12か月
CAC(顧客獲得コスト)
「Customer Acquisition Cost」の略で、新規顧客の獲得にかかるコストを表す指標です。CACが少ないほど効率的に顧客を獲得できている証になります。CACが高くなりすぎると、この後にご紹介するLTVとのバランスが崩れ、収益性の悪化につながるため、改善が必要です。
CAC = 顧客獲得で投資したコスト ÷ 獲得した顧客数
LTV(顧客生涯価値)
「Lifetime Value」の略で、顧客1人あたりが生涯でもたらす利益の総額を表します。LTVが高ければ、顧客をファン化し、良い関係性を保てていると言えます。SaaS事業を黒字化するためには、CAC(顧客獲得コスト)を上回るLTVを実現しなければなりません。
LTV = 月の平均顧客単価 × 収益率 × 購買頻度 × 継続期間
Churn Rate(解約率)
サービスの解約率を表します。SaaS事業において安定した収益を得るためには、解約の原因を分析し、Churn Rateを下げることが重要です。
Churn Rate = 一定期間で失った顧客数 ÷ 当初顧客数 × 100
SaaSの代表的なサービスと成功事例
SaaS業界で成功を収めているサービスの戦略や要因をご紹介します。
Zoom
Zoomは、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に急成長したビデオ会議ツールです。SkypeやCisco Webex等の競合があるなかで、使いやすいインターフェイスと汎用性で一気にシェアを拡大しました。Zoomが他社との差別化を図り、成功できた要因として、同社の製品管理部長を務めていたOded Gal氏は以下の点を挙げています。
・カスタマーの「Happiness」を絶対視するエンジニアチームがいたこと
・エンジニアが高い技術力を持っており、信頼性の高いサービスを提供できたこと
・製品・サービスが一つのクライアント上にまとめられており管理がしやすいこと
・製品の拡張性が高く多くのアプリと連携できること
技術力はもちろんのこと、ユーザーファーストで考え、使いやすい・管理しやすい設計がなされていたことが、Zoomが成功した要因と言えるでしょう。
Adobe Creative Cloud
Adobe Creative Cloudは、従来買い切り型であった「Photoshop」や「Illustrator」等のクリエイターツールをサブスクリプション化したサービスです。Adobeはテクノロジーの進化を素早くサービスに反映するためにサブスクリプション化を行いました。
同時に、これまでは仕事がメインであったクリエイターツールが、趣味として多くのユーザーに使われるようになると予想し、データドリブンで顧客満足度を上げる取り組みにも注力しています。結果として、Adobeは2024年第2四半期で過去最高売上高を実現し、成長を続けています。
SaaSのビジネスモデルを知り最適な選択を
SaaSには、サブスクリプションや従量課金、フリーミアム等の多様な課金方式があり、ユーザーと事業者双方にとってそれぞれ異なるメリット・デメリットがあります。事業者は、安定した収益を確保しながら成長を目指すために、自社のサービスやターゲットに適したモデルを選ぶことが重要です。一方で、ユーザーはコストや利便性を考慮し、最適なサービスを選択することが求められます。SaaSの特性を理解し、最も適した選択をしましょう。
本記事で解説したビジネスモデルについての知識は、当該ビジネスモデルを商材とする様々な営業活動に携わる方々にとっても有用となりますので、転職先としてSaaS業界を検討している方もぜひお役立てください。
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