2025年7月15日公開
最終更新日:2025年7月15日
SaaSビジネスの継続率とは?計算方法や目安、高めるポイントまで解説
SaaSビジネスにおいて「継続率」は欠かせない重要な指標です。新規顧客の獲得に費やすコストは年々高騰しているため、安定収益を実現するには既存顧客の維持が欠かせません。本記事では、SaaS継続率の定義や計算方法、NRRとの関係、継続率を高める施策を詳しく解説します。
SaaS継続率とは?
最初に、SaaSの継続率とはどういうものか、その概要と解約率との違い、および継続率の重要性について解説します。
SaaSビジネスにおける継続率の定義
継続率とは、SaaSサービスを継続利用している顧客や売上の割合を示します。SaaSビジネスは一般的にサブスクリプションモデルとなっており、サービスの利用を継続するほど収益が得られます。そのため、継続率はそのサービスの収益に直接関わる重要な指標です。
「解約率」との違い
継続率が継続している割合を示すのに対し、解約率はどれくらい失っているかを示す指標です。解約率は「1 - 継続率」で算出でき、継続率と解約率は相反の関係にあります。例えば、あるサービスの解約率が10%であれば、継続率は90%です。
継続率の重要性
SaaSビジネスにおける継続率は、経営者や投資家にとってその企業の「収益の安定性」を評価するために重要な指標です。継続率が高ければ高いほど、その企業価値は高く評価されます。また、継続率が安定していれば、より効果的な経営判断が可能です。
SaaS継続率の計算方法
継続率は、顧客ベースと売上ベースで算出方法が異なります。ここでは、継続率を算出するための計算方法を解説します。
顧客ベースでの継続率
顧客ベースの継続率は、期間開始時にいた顧客数に対し、期間終了時まで解約せずに残っている顧客の割合を示します。計算式は以下のようになります。
継続率 = (期末顧客数 - 新規顧客数) ÷ 期首顧客数 × 100
例えば、期首顧客数が10,000人、期末顧客数が9,500人、新規顧客数が500人であれば、継続率は (9,500 - 500) ÷ 100 × 10000 = 90% となります。
顧客ベースの計算率では、顧客一人あたりの売上金額を考慮していない、という点に注意が必要です。例えば、月額30,000円のサービスと月額3,000円のサービスがあっても、顧客数としては同一の価値で扱われます。
売上ベースでの継続率
売上ベース(収益ベース)の継続率は、顧客単価の増減を含めた維持率を示す指標で、実際のビジネスインパクトを把握するのに適しています。計算式は以下のとおりです。
期間開始時の収益ー(解約・ダウングレードで失われた収益÷期間開始時の収益) ×100
例えば月初の収益が100万円あり、その月に解約・ダウングレードで20万円減った場合、売上ベースの月次継続率は80%となります。この指標をNRRと組み合わせることで、アップセル・クロスセルを含めた総合的な収益継続性を評価でき、SaaS特有の成長戦略の基盤となります。
月次(MRR)と年次(ARR)での計算例
売上ベースの継続率を算出するには、期間開始時の収益を算出する必要があります。期間は主に月間、年間があり、それぞれの収益の算出方法は以下です。
MRR(月間経常収益):月額利用料 × ユーザー数
ARR:(年間経常収益):MRR x 12ヶ月
月単位での契約の場合はMRR、年間契約ではARRと使い分けるとよいでしょう。
NRR(Net Revenue Retention)との関係
SaaSビジネスでは「継続率」以外に「NRR」もあわせて見る必要があります。NRRとは売上維持率を意味し、既存顧客から得られる収益のうち、アップセル・クロスセル・解約などを加味した正味の収益継続率です。ここでは継続率とNRRの関係について解説します。
NRRの定義と継続率との相関
NRRは以下の計算式で算出されます。
NRR(%) = (期間初めのMRR + アップセル + クロスセル – 解約 – ダウングレード) ÷ 期間初めのMRR × 100
継続率は顧客数や基本的な売上維持に注目する一方、NRRはアップセルやクロスセルなどで増加した収益、そしてダウングレードや解約による減少を加味して算出されます。つまり、NRRは既存顧客群がどれだけ収益を生み続け、さらに拡大しているかを総合的に示す指標です。
NRRが100%以上の意味
NRRが100%以上であれば、たとえ一部の顧客が離脱しても、残った顧客の単価が増えていることを意味します。例えばNRRが110%であれば、仮に一定の解約があっても、残った顧客がアップセルやクロスセルでより多くの料金を支払っているため、全体として売上が成長している状態です。逆にNRRが100%を下回る場合は、既存顧客の収益が減少傾向にあり、解約以上のアップセル戦略が不足している可能性を意味します。
継続率とNRRを併用するメリット
継続率とNRRは、それぞれ測るものが異なるため、併用することでビジネスの全体像が掴めます。例えば、顧客ベースの継続率が90%でも、NRRが110%なら収益は拡大傾向にあります。逆に継続率は高くてもNRRが100%を切っていれば、既存顧客の利用単価が下がっているといえます。これらを組み合わせることで、より積極的なアップセル・クロスセル戦略の必要性を判断でき、ビジネスの成功に役立ちます。
SaaS継続率の目安
SaaSの継続率は、サービスの性質やターゲットによって基準は変わります。ここでは業界やBtoB/BtoCの違い、そして継続率が高いSaaS企業に共通する特徴について詳しく解説します。
業界やサービスモデル別の継続率の目安
SaaSの継続率は、月次継続率は95%、年次継続率は65~80%が一般的です。ただし、SaaS継続率の水準は提供する業界やサービスモデルに大きく左右されます。例えば、提供サービスが企業向けか、個人向けか、によっても変わります。
BtoBとBtoCの違い
BtoBは契約が複数年に及ぶケースや、業務フローに深く組み込まれるケースが多く、継続率が高い傾向にあります。例えば顧客基盤が法人中心で、サービスの切り替えに社内調整が必要な場合、解約のハードルは高くなります。一方でBtoCは利用者個人の意思決定で簡単に解約できるため継続率は比較的低くなります。この違いを理解した上で、ターゲットに合わせた施策や継続率目標を立てることが重要です。
継続率が高いSaaS企業の特徴
継続率が高いSaaS企業にはいくつかの共通点があります。例えば、以下が挙げられます。
- 顧客の課題を的確に捉え、継続的な価値を提供できている
- オンボーディングやカスタマーサクセスを徹底している
- 強固なサポート体制を築き、顧客を支援できている
これらの対応により顧客は「解約する理由が見つからない」状態となり、高い継続率が自然に維持されます。
継続率が低いとどうなるのか
継続率が低いということは、提供するサービスの出入りが激しく、収益が不安定の状態を表します。この状況がどのような意味をもつのか、以下の観点で解説します。
- 顧客獲得コスト(CAC)とのバランス
- LTV(顧客生涯価値)への影響
- 投資家からの評価に及ぼすリスク
顧客獲得コスト(CAC)とのバランス
SaaSでは新規顧客を獲得するために、広告や営業活動などによって発生する費用を、顧客獲得コスト、CACと呼びます。一般的には契約獲得1件あたり数万円から数十万円を要するケースも少なくありません。
継続率が低い場合、このCACを十分に回収する前に顧客が離脱してしまい、収益モデルが破綻します。SaaSは継続利用による利益で初めて黒字化するモデルであるため、継続率が低いと事業のキャッシュフローが厳しくなり、次の成長投資すら難しくなるのです。
LTV(顧客生涯価値)への影響
LTV(Lifetime Value)とは、1人(1社)の顧客が契約期間中に企業にもたらす総利益を示す指標のことです。継続率が低いと、LTVも同じく低下します。例えば月額課金1万円のサービスで平均契約期間が3か月ならLTVは3万円ですが、12か月なら12万円です。SaaSビジネスはこのLTVを高めることで利益を最大化し、CACとのバランスを適正化して成長を図ります。
投資家からの評価に及ぼすリスク
継続率やNRRは、投資家やベンチャーキャピタルがSaaS企業を評価する際の重要指標です。なぜなら、これらの数字は将来の売上予測の確度やキャッシュフローの安定性を直接示すからです。継続率が低いSaaSは「不安定なビジネス」と見なされ、企業価値評価が大きく下がるリスクがあります。
SaaS継続率を高める施策①:オンボーディングの最適化
SaaS継続率を高めるためには具体的にどのような施策をとればよいでしょうか。まず最初に紹介するのは「オンボーディングの最適化」です。
初期体験の重要性
SaaSにおける初期体験は、ユーザーの今後の解約率に大きな影響を与えます。ユーザーは登録後の数日から数週間の間に、「このツールは役立つ」と判断できなければ利用をやめてしまうケースが多いのです。導入時に価値を体感できれば、その後の長期利用につながり、結果的にLTVの増加と解約率低下を同時に実現できます。
ユーザー教育とガイド設計
オンボーディングでは、ユーザーが迷わず自走できるように教育コンテンツやガイドを整備することが不可欠です。例えば操作マニュアルや動画チュートリアル、初回ログイン時にステップごとに操作をガイドする仕組みなどが効果的です。
こうしたユーザー教育やガイド設計があることで、顧客がサービスの価値を享受しやすくなり、結果として継続率の向上に直結します。
サポート体制の強化
BtoB SaaSの場合では、初期導入段階での手厚いサポート体制が継続率に大きく影響します。例えば専任のカスタマーサクセスマネージャーを配置し、導入ミーティングや定期フォローを実施することで顧客の不安や課題を早期に解消できます。また、チャットサポートや電話サポートを迅速に対応できるようにしておくと、ユーザーに安心感を提供できます。
このように、ユーザーが困ったときにフォローできる体制を整えることで、満足度の向上および長期的な利用意欲を高められます。
SaaS継続率を高める施策②:継続的な価値の提供
SaaS継続率を高める施策として2番目に紹介するのは「継続的な価値の提供」です。具体的な施策について解説します。
カスタマーサクセスの定義
カスタマーサクセスとは「顧客が自社のサービスを通じて継続的に成果を出せるよう支援する活動」のことです。例えばカスタマーサクセス担当が定期的に顧客とミーティングを行い、KPIの進捗を一緒に確認しながら課題解決をサポートすることで、顧客は自分たちのビジネス成果とサービス利用を強く結び付けて考えることができます。
アップセル・クロスセルの設計
継続率を高めるうえで重要なのが、既存顧客へのアップセル・クロスセルです。アップセルは上位プランへの移行を促し、クロスセルは関連サービスを追加利用してもらうことを指します。単なる売り込みではなく、顧客の課題や成長フェーズに応じた提案であれば、顧客自身も「必要だから使う」という形になり、解約リスクを下げながら売上を増やせます。
定期的なフィードバック収集
顧客の声を反映した改善活動を行うことで、顧客に継続的に価値を提供できます。顧客が何を求め、どこに不満や要望があるかを定期的に把握することも、継続率向上に欠かせません。例えばアンケートやユーザーインタビューを通じて顧客の生の声を集めることで、サービス改善やサポート強化につなげられます。
SaaS継続率を高める施策③:プロダクト改善と機能追加
SaaS継続率を高める施策3番目は「プロダクト改善と機能追加」です。どのような施策を行えばよいか、具体的に解説します。
顧客要望の収集方法
プロダクト改善の出発点は、顧客がどこに課題を感じ、どんな機能を求めているのかを正しく理解することです。そのためには定期的なフィードバックのほか、サポートへの問い合わせ内容を活用します。これらを分析することで、全体傾向を踏まえた改善方針が立てられます。
ロードマップ設計とアジャイル開発
顧客の要望を開発する際は、どの機能が継続率やNRRに最も影響を与えるかを分析し、優先順位をつけて対応することが重要です。このとき、アジャイル開発によって素早くリリースすると、ユーザーの反応を見ながら改善を繰り返すことにより、スピーディーに顧客に価値を届けられます。またロードマップを顧客に共有すると「このツールはこれからも進化し続ける」という期待感を持ってもらえ、結果的に解約を抑制する効果も生まれます。
機能改善とエンゲージメントの関係
機能改善は単に新しい機能を追加するだけでなく、既存機能の使い勝手を向上させることも重要です。例えば、UI/UXの改善や、利用状況に応じたダッシュボードのカスタマイズ性向上などは、顧客からの不満を解消し、利用頻度(エンゲージメント)を高める直接的な要素です。
継続率向上を数値で追うためのKPI設計
継続率の状況を定量的にモニタリングすることは、改善活動を管理するために重要です。ここでは継続率をモニタリングするためのKPI設計について解説します。
モニタリングすべき指標
継続率向上に向けて押さえるべき指標はいくつかあります。代表的な指標として以下が挙げられます。
- 月次継続率(MRR)
- 顧客継続率(CRR)
- 解約率(チャーン率)
- NRR
- 顧客獲得コスト(CAC)
- 顧客生涯価値(LTV)
これらの指標を並行して追うことで、単なる顧客数の維持ではなく、収益と満足度の両面から健全性を評価できます。
継続率に関わるチーム連携のポイント
継続率の改善はカスタマーサクセス部門だけの役割ではありません。例えばプロダクトチームはUI/UX改善や要望対応を行い、マーケティングは既存顧客向けの利用促進コンテンツを制作、営業は最適なプラン提案を担当します。カスタマーサクセスは顧客との定例MTGを通じて課題を吸い上げ、各部門にフィードバックします。
部門間で共通目標として持つことで、継続率向上が組織全体の目的となり、より強力な改善活動が可能になります。
ダッシュボード活用法
KPIを効率的にモニタリングするには、ダッシュボードを使ってリアルタイムにデータを可視化するのが便利です。これにより、月次や四半期ごとの数字の推移が一目でわかり、異常値や傾向を迅速に発見し、対応が可能です。またダッシュボードをチームで共有することで、部門間の情報格差をなくし、課題の早期解決につなげられます。
SaaS営業では継続率を意識しよう
SaaSビジネスにおいて継続率は、事業の健全性や将来性を映す最重要指標です。継続率を高めるには、以下の施策が効果的です。
- オンボーディングを最適化
- 継続的な価値を提供
- プロダクト改善や機能追加
また、複数のKPIをダッシュボードで可視化し、組織全体で課題に取り組むことも大切です。本記事で紹介したポイントを踏まえ、ぜひ自社の継続率を定期的に見直し、戦略的に向上させていきましょう。
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